メディア
「深き思索、静かな気づき」
No.120
ポスト・トランプ 三つの変革

先日、ある知人が大病を患い、大手術をした。彼に聞くと、これまでも色々な体の不調はあったが、それを軽視し、根本的な治療をせずにやってきた結果、それが最悪の病状として現れ、この大手術になったとのこと。
この知人の大病の話は、筆者には、現在の世界の状況を象徴した物語のように思われる。
現在、発足半年のトランプ政権の一挙一動に、世界が振り回されているが、この「混沌」と呼ぶべき状況の中で、筆者は、メディアから「この政権をどう考えるか」という質問を、数多く受ける。
そうした質問の背後には「トランプ政権が原因となって、世界の政治的、経済的、社会的な諸問題が引き起こされている」との認識があると思われるが、しかし、筆者は、事実は逆であると考えている。
すなわち、いま世界で起こっていることは、「世界の政治的、経済的、社会的な諸問題(病)が原因となって、トランプ政権という最悪の現象(病状)を生み出している」と考えるべきであろう。世界が、これまで解決(根本治療)せずに放置してきた問題(深刻な病)が、いま、トランプ政権という現象(最悪の病状)を生み出しているのである。
そのことを、現在の資本主義、民主主義、自由主義、それぞれの「病」という視点から論じよう。
第一は、現在の資本主義の「歪み」である。
それは、世界中で貧富の差を拡大し続け、米国でも生活困窮層を大量に生み出してきた。その生活困窮層の不満や怒り、絶望感が、かつてのドイツのナチス政権誕生と同様、専制主義的政治を求め、虚偽の主張と誇大な幻想を振り撒いたトランプ政権を誕生させたのである。されば、現在の資本主義の歪み、経済格差の拡大と貧困層の窮乏を解決しない限り、世界中に大衆迎合主義(ポピュリズム)と結びついた専制主義が広がっていくだろう。
第二は、現在の民主主義の「脆弱さ」である。
実際、民主主義を守り、専制政治を抑止するための「三権分立」という制度さえも、トランプ政権によって、いともたやすく壊されてしまった。その現実を、我々は、「民主主義の手本」と言われてきた米国において、目の当たりにしているのである。
では、こうした歴史の逆行が、なぜ起こるのか。
それは、民主主義を掲げる勢力が、しばしば「理想主義」の自己陶酔に流されるからである。その甘さが、専制主義に走る勢力の「現実主義」のしたたかさに敗れ去る。それが現在の米国の姿であろう。
第三は、現在の自由主義の「劣化」である。
本来、自由主義が健全に機能するためには、他者や弱者に配慮する「共感や博愛」「倫理や道徳」「公共意識」「社会貢献」などの価値観が不可欠であるが、現在の世界は、個人から国家のレベルに至るまで「自己中心的」な価値観が蔓延している。
「アメリカ・ファースト」というスローガンは、一見、心地よい響きを持ち、それがトランプのような人物を大統領の座に押し上げたのであるが、その根底にあるのは「世界の他の国のことなどどうでも良い」「未来の世代のことより自分の世代だ」という思想であり、それが、途上国支援の廃止や温暖化対策の軽視などの愚策を通じて、世界全体の発展と未来世代の福祉を毀損し、米国の国益をも毀損してしまうことは、火を見るよりも明らかであろう。
このように、これまでの世界が、資本主義の歪み、民主主義の脆弱さ、自由主義の劣化という「三つの病」を深刻に受け止めることなく放置してきたことが、トランプ政権という「最悪の病状」を生み出したことを、我々は、理解すべきであろう。
今年発足したトランプ政権は、いかなる批判・非難や反対運動があっても、いずれ四年は続く。その四年間に、どれほどの愚策が実行され、世界の政治、経済、社会に、どれほどの混乱と被害をもたらすか、筆者にも想像がつかない。それは、いずれ、後世の歴史家によって「世界最強の国において、最悪の政治体制が成立したとき、何が起こるか」の事例として、徹底的な検証が行われるであろう。
しかし、真に大切なことは、そうした検証ではない。この四年間の痛苦で悲惨な経験を通じて、米国と世界全体が深く学び、トランプ政権という最悪の病状を生み出した、資本主義、民主主義、自由主義の深刻な病に対して、どこまで根本的な治療(三つの変革)に取り組むことができるかであろう。
ポスト・トランプの時代に、その三つの変革ができるか否か。それができなければ、世界は、資本主義の暴走、民主主義の崩壊、自由主義の堕落という病、すなわち「死に至る病」に向かっていく。