メディア

「深き思索、静かな気づき」
No.114
トランプ政権と「経営の理」



第二期のトランプ政権が発足したが、現在、多くのメディアは、トランプ大統領が発する過激なメッセージに目を奪われ、振り回されており、中には、これから色々な「トランプ・マジック」が起こるかのような論調さえ目につく。

しかし、一人の経営者として、この政権の今後を予見するならば、トランプ大統領は、早晩、「組織経営」の点で、様々な混乱に直面するだろう。

なぜなら、経営とマネジメントには「物事は、こうすれば、必ずこうなる」という「理(ことわり)」があるからである。経営においては、その「理」を無視して、物事がうまく進むという「マジック」は無い。それは、国家組織の経営においても同様であり、むしろ、巨大組織であればあるほど、その「理」は「必然」となる。

それゆえ、トランプ大統領は、必ず、次の「三つの問題」に直面することになる。そして、これらの問題は、第一期のトランプ政権よりも、さらに過激かつ深刻な形で顕在化するだろう。

第一は、トランプ大統領と閣僚との軋轢。

第一期政権では、トランプ大統領は、彼に対して協調的に動く人物を閣僚に指名したが、この第二期では、イーロン・マスク氏やロバート・ケネディ・ジュニア氏のような人物を指名している。

筆者は、永年、色々な経営者と組織を見てきたが、ワンマン経営者が、時折、その能力を買って、個性と主張の強いワンマンタイプの人材を幹部にすることがある。しかし、こうした組織は、必ず、経営者とその人材の間に軋轢が生じ、組織が混乱し、経営がおかしくなる。それゆえ、第二期のトランプ政権も、同様の混乱に向かうだろう。

第二は、閣僚と配下組織の軋轢。

第一期では、トランプ大統領に従順ながら、それなりに政治経験があり、行政組織の運営経験のある人物で周りを固めたが、第二期は、彼には強い忠誠を誓うものの、政治の経験や行政組織の運営経験の乏しい人材が多く登用されている。

経営の世界では、経営トップが自分への忠誠心で幹部を選んでしまうことが、しばしば起こるが、その幹部が、配下の組織のマネジメントにおいて未熟で粗雑である場合、その幹部と配下組織の間で大きな軋轢が生まれ、組織が混乱し、その混乱の収拾に経営トップのエネルギーが奪われることになる。

それゆえ、優れた経営者やリーダーは、自身への表層的な忠誠心よりも、その幹部の統率力やマネジメント力を見て、幹部の選任を行うが、第二期のトランプ政権は、この点でも問題が多発するだろう。

第三は、閣僚同士の軋轢。

経営やマネジメントの世界の怖さは、経営者やリーダーの価値観が、恐ろしいほどに、組織の文化や幹部の意識に映し出されることである。

実際、パワハラ的経営者の下では、パワハラ的幹部が数多く生まれ、部下を操作する「操作主義」の経営者の下では、やはり「操作主義」に染まった幹部が多くなり、「権力志向」の強い経営者の下では、幹部もまた「権力志向」に流される。

そして、絶対的権力者の下では、幹部は、その権力者との「距離の近さ」を競うようになり、「誰もがトップしか見ていない組織」が生まれ、「互いの協調的行動を軽視する組織」に堕してしまう。

以上述べた三つのことは、経営やマネジメントの世界の「理」であり、予測ではなく、必然である。

されば、トランプ政権は、これから確実に、この「三つの問題」に直面することになる。

もとより、外交や経済の幾つかの課題で、彼の「スタンドプレー」が成功することもあるだろう。

しかし、この「経営の理」に、マジックは無く、スタンドプレーも通用しない。

それゆえ、昔から優れた経営者や政治家は「経営の理」や「政治の理」を深く学び、その「理」に従い、物事を決め、行動してきたのである。

されば、トランプ大統領は、一つの格言で知られる「政治の理」にも、向き合うことになる。

少数の人を、長く騙すことはできる。

多数の人を、一時期、騙すことはできる。

しかし、多数の人を、長く騙すことはできない。

然り。歴史を見るならば、実行不可能な政策を大衆迎合的に語り続けて政権を得た政治家は、例外なく、この「理」に従い、挫折している。

これから、トランプ政権に、何が起こるのか。

それは、あれこれの政策の分析や評価や予測をするまでもなく、この冷厳な「経営の理」と「政治の理」が、教えてくれている。