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「深き思索、静かな気づき」
No.110
国民が求める「真の政治改革」



現在、与野党で総裁選と代表戦が行われているが、裏金問題への国民の強い批判を意識して、どの候補者も「政治改革」を語っている。しかし、その中身は、残念ながら「政治資金規正法の改正」の次元を出ていない。もし、真に「政治改革」を論じるのならば、いま国民の多くが願っているのは、「政治の閉塞感」を打ち破る改革であることを、理解すべきであろう。

現在の政治は、「一強多弱」の状況。野党が弱いため、与党は、どのような不祥事を起こしても、総選挙を行って勝てば「禊」を済ませたことになり、結局「何も変わらない」という閉塞的状況にある。こうした状況が、多くの国民の中に、特に若い世代の中に、「選挙に行っても意味がない」という「無力感」を生み出しており、それが、毎回の選挙における「投票率の低下」につながっている。

では、どうすれば、この「閉塞感」を打ち破ることができるのか。そのために、いま、どのような「政治改革」を行うべきなのか。

それは、現在の「小選挙区制度」の改革である。

1994年に細川内閣で導入された「小選挙区比例代表並立制」は、「政権交代可能な二大政党制」の確立と「金のかからない選挙」を標榜して実現されたが、それが結果としてもたらしたものは、皮肉なことに、野党が分裂し弱小化したため、「二大政党制」ではなく、「一強多弱体制」であった。

そして、この小選挙区制度は、30%余りの得票率でも60%以上の議席が獲得できる制度であり、容易に「巨大与党」が生まれてしまうため、与党は、政権交代の恐れがないだけでなく、圧倒的多数の議席に慢心し、緊張感を失い、様々な不祥事を生み出す結果となってしまった。これは、与党にとっても不幸なことである。

それゆえ、いま行うべき「真の政治改革」は、「政治資金規正法改正」などの対症療法ではなく、現在の「小選挙区制度」の改革であろう。

ただ、こう述べると、「選挙制度の改革は極めて難しい」という声が挙がるかもしれない。たしかに、この改革が、現在の「小選挙区制度」を元の「中選挙区制度」に変えるといった改革であるならば、それは、かなり難しいだろう。しかし、実は、現在の法律を少し変えるだけで劇的な改善が実現できる改革がある。

それは、「2回投票制の導入」である。

この制度は、すでにフランスでは永年にわたり実施されているが、第1回投票で過半数を獲得する候補者がいない場合には、一定得票率を超えた候補者で、第2回の決選投票を行うという方式である。この「2回投票制」は、現状の小選挙区制度を大きく変えることなく導入できるものであるが、もし、我が国で「上位2名の決選投票方式」を導入するならば、次の「5つの改革」が期待できるだろう。

1. 常にその選挙区で50%以上の得票をした候補者が選ばれるため「死票」が大きく減少し、有権者の民意が、より正確に反映されるようになる。

2. 「決選投票方式」であるため、選挙に緊張感が生まれ、選挙への関心が高まり、投票率が上がり、国民の政治参加が進む。

3. 「決選投票」に向けて、3位、4位の下位候補者の票が2位の候補者に流れる可能性があるため、相対1位の候補者も、落選する可能性がある。すなわち、与党が相対1位の選挙区でも、第2回投票で「野党連合的投票行動」が生まれやすくなるため、与党に緊張感が生まれる。

4. また、ばらばらの野党が、第1回投票ではそれぞれ独自候補を立てても、第2回投票では自然に合従連衡を行うことになるため、ある意味で「野党連合」が促進される。すなわち、第1回投票が、野党にとっての「予備選」になるため、事前の候補者調整が不要になり、野党の連携が進みやすくなる。

5. 従って、与党が国民の厳しい批判を浴びたときには、「政権交代」が起こりやすくなるため、国民の政治への関心が高まり、政治参加が大きく進む。

もとより、この「2回投票制」は、短期的に見れば、現在の与党にとっては好ましくない制度改革である。しかし、国民と有権者にとっては、明らかに好ましい改革であり、中期的には、現在の与党にとっても、緊張感を持って自己改革を続ける政党へと脱皮することができる、好ましい改革である。

新たな与党のリーダーが、真に「政治改革」を標榜するのであれば、まず、自党の利害得失を超え、政治に緊張感が生まれ、国民の政治参加が促される、この選挙制度改革をこそ行うべきであろう。