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「深き思索、静かな気づき」
No.123
活躍する人材「五つの基礎力」


筆者は、毎年五千名の学生が実社会に巣立つ学園を預かる立場であるが、学生たちの後姿を見送るとき、彼らの前途にある困難な未来への憂慮を禁じ得ない。

なぜなら、現在の社会では、彼らを職業人として育ててくれる職場環境が失われているからである。

それは、端的に言えば「三つの問題」である。

第一は、長引く経済不況の結果、企業に人材を育成する余力が無くなっていることである。筆者の若い頃は、企業が新入社員を、余裕を持って三年は育ててくれたが、いまは、そうした余力は無くなり、「即戦力」という言葉が虚しく飛び交っている。

第二は、多くの企業において、中間管理職の力が衰えていることである。実際、「熟練のプロ」と呼べる管理職は稀有になり、多くの上司が、若手を育てる以前に、自身の成長さえ危うくなっている。

第三は、若手を指導・育成しにくい企業文化が広がっていることである。目に余るパワハラも存在する一方で、若手に少し厳しいことを言うとパワハラと訴えられる空気もあり、自身を守るために、若手の成長に必要な苦言さえ控える上司が増えている。

こうした状況を象徴するのが、「この会社では成長できないから」という理由で退職する優秀な若手社員が増えているとの調査結果であろう。

では、実社会が若手人材を育ててくれない時代に、大学や専門学校は、学生たちに、どのような力を身につけさせてあげるべきであろうか。

本論では筆者が預かる学園が実践体験教育を通じて教えている「五つの基礎力」を紹介しておこう。

第一の力は、実技教育で身につけた「専門技能」(エキスパート力)である。これからのAI時代には、「専門知識」や「論理思考」で行える仕事は、大半がAIに代替されていく。人間に残るのは、身体的に修得した「専門技能」で行う仕事になっていく。従って、「専門資格」を取るならば、「知識資格」よりも「技能資格」を取るべきであろう。

第二の力は、いかなる業種でも通用する「汎用技能」(プロフェッショナル力)であるが、当学園では、次の「五つの力」を教えている。

1.仲間の智恵を集めて創造的なアイデアを生み出せる「創造的コミュニケーション力」、2.異った業種の人材とも円滑に協働できる「異業種コラボレーション力」、3.仲間を励まし支援する精神にもとづく「共感的チームワーク力」、4.仲間が互いに学び合い成長する場を創る「成長場リーダーシップ力」、5.いかなる状況変化にも柔軟に対応してプロジェクトを運営できる「創発的プロジェクト力」。

この「五つの力」を身につけた人材は、たとえ転職で業種が変わっても、必ず活躍できるだろう。

第三の力は、いかなる職場でも求められる「人間関係力」であり、「人間力」の土台となる力であるが、当学園では、次の「五つの力」を教えている。

1.相手の心に正対して対話をすることができる「正対コミュニケーション力」、2.相手の無言の声に耳を傾けることができる「非言語コミュニケーション」3.問題に直面したとき、他人や環境の責任にせず自分の成長の課題として受け止めることができる「課題アクセプタンス力」4.人間関係がおかしくなったとき、自ら心を開いて修復できる「和解アクション力」、5.自分の心の中のエゴの動きを見つめることができる「自我マネジメント力」。

この「五つの力」を身につけた人材は、職場で周りから信頼され、活躍するだけでなく、いずれ、マネジメントや経営の道を歩んでいくことになるだろう。

第四の力は、生涯、成長を続けていくことができる「成長持続力」である。当学園では、このための中核技法として、仕事の経験を反省を通じて振り返り、自身の成長の課題を発見し、自己改革を続けていく「リフレクションの技法」を教えている。

第五の力は、生涯を通じて自立した人生を送るための「自分会社力」である。すなわち、たとえ会社に勤めても、「この会社が自分を養ってくれる」という甘えや幻想を持たず、生涯を通じて「自分」という会社の経営者として生きていく力である。当学園では、これを「マイ・カンパニー力」として、入学した直後から、すべての学生に教えている。

こう述べてくると、多くの読者は、これらの力は、これから実社会に出る学生だけに求められる力ではないことに、気がつかれるだろう。

然り。読者が五十代の会社員であっても、人生百年時代、いずれ新たな職場に向かうことになる。

その第二の人生を輝くものにするために求められるのも、この「五つの基礎力」に他ならない。